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腎細胞がんの予後診断法を開発 他のがん種診断も視野に2018年の実用化を目指し「小型汎用DNAメチル化診断装置」共同研究開発

独立行政法人国立がん研究センター
積水メディカル株式会社

独立行政法人国立がん研究センター(理事長:堀田知光、東京都中央区、略称:国がん)は、腎細胞がんの予後診断法を開発し、これを実用化するため、積水メディカル株式会社(代表取締役社長:田頭秀雄、以下「積水メディカル」)と共同で、「小型汎用DNAメチル化診断装置」の開発に着手いたしました。2018年の上市と、腎細胞がん以外のがん診断への応用も視野に共同研究開発を進めます。

DNAのメチル化とは、DNAに遺伝情報を書き込む暗号であるT・C・G・Aの4文字 (塩基)のうちのC (シトシン)塩基にメチル基が結合して、細胞の中でタンパク質が作られる量を調節する仕組みです。DNAのメチル化の異常は突然変異と並ぶ発がん要因であり、がんの診断・治療・予防への臨床応用が試みられている、現在大変注目を集めている研究分野です。
今回開発した予後診断方法は、腎細胞がんの中でも進行が速く手術をしても転移・再発を起こしやすい腎細胞がんにおいてCpGアイランドメチル化形質※1が陽性であること、また17個の遺伝子をマーカーとして同定したことにより、そのメチル化を測定し判定を行うものです。国立がん研究センター研究所 (所長:中釜斉、以下「当センター研究所」)では、この悪性度の高い腎細胞がんを治療する分子標的薬の研究も進めており、今後個別化医療への発展も期待されます。
また、CpGアイランドメチル化形質陽性のがんは、今回初めて同定した腎細胞がんの他にもこれまでの研究で胃がんや大腸がん等でも確認されています。また、当センター研究所では、DNAメチル化異常を指標とした、慢性肝障害による経過観察中の肝がん発生リスク診断基準、尿路上皮がんの再発リスク診断基準等も開発しており、様々ながん種のDNAメチル化診断の開発も進んでいます。
同研究は、国立がん研究センターが、独立行政法人医薬基盤研究所 (理事長:米田悦啓)の委託を受け、先駆的医薬品・医療機器研究発掘支援事業「多層的疾患オミックス解析に基づく創薬標的の網羅的探索を目指した研究」において行った成果で、当センター研究所分子病理分野長 金井弥栄ががん専門誌「BMC Cancer」に論文を発表いたしました。

DNAメチル化診断の利点

  • DNAメチル化状態は、環境要因等でも変化し、その人が生涯にわたって受け続けてきた発がん要因の影響の蓄積を反映すると考えられます。このため、血液等の体液検体等のDNAメチル化率を評価することで、発がんのリスクの予測や、がん細胞で起こっているDNAメチル化異常を指標にがんの存在診断ができる可能性があります。
  • がんの悪性度や予後とDNAメチル化状態がよく相関することも明らかになってきており、腎細胞がん以外のがんでも、DNAメチル化率を定量することで、予後を診断し、特定の治療法への反応しやすさを明らかにするコンパニオン診断を行える場合があります。
  • いったん起こったDNAメチル化異常は、DNAメチル化酵素の基質への嗜好性に基づいてゲノム上に安定に保存され、少量の検体からも高感度な検出法で検出でき、優れた診断マーカーになると考えられています。

実用化を目指す「小型汎用DNAメチル化診断装置」について

腎細胞がんの予後診断を実用化するためには、検診機関や病院・診療所で血液等の体液検体や手術等でとられた組織検体を用い、早く正確にDNAメチル化率を測定できるようにする必要があります。しかし、現在研究等に用いている解析機器類は、概して大型・高額であり、かつ手技が煩雑で、コスト等の面からも少数症例の解析に適しておらず、病院・診療所にそのまま導入して個々の患者さんの診断に使うのは容易でありません。

今回、国立がん研究センターと積水メディカルが共同研究開発を行う装置は、高速液体クロマトグラフィー (HPLC)法※2によりメチル化シトシンを含むDNA断片を分離するものです。積水メディカルが有する高分子化学技術により、搭載するHPLCカラムの分離能を最適化することで、小型で高性能の診断装置を実現します。積水メディカルは既にHPLC法を用いたグリコヘモグロビン分析装置(https://www.sekisuimedical.jp/business/diagnostics/poct/a1c/index.html)を上市しており、小型でありながら迅速・精密な分析が簡便に行えることから、このグリコヘモグロビン分析装置はクリニックや小規模病院にも導入されて糖尿病診断に使用されています。現在開発中のHPLC法による「小型汎用DNAメチル化診断装置」は、このグリコヘモグロビン分析装置と同等サイズで、10-15分の測定所要時間で行える精密分析装置としての完成が見込まれています。

基盤となった多層的疾患オミックス解析プロジェクト

研究の基盤となった「多層的疾患オミックス解析に基づく創薬標的の網羅的探索を目指した研究」は、我が国の6つのナショナルセンター (独立行政法人国立がん研究センター、国立循環器病研究センター、国立精神・神経医療研究センター、国立国際医療研究センター、国立成育医療研究センター、国立長寿医療研究センター)の研究者が、腎がん・肺がん・乳がん・胃がん・拡張型心筋症・大動脈瘤・肥満症・非アルコール性脂肪性肝炎・アルツハイマー病・脊柱管狭窄症・てんかん・アレルギー疾患・小児白血病の病変組織・細胞と適切な対照試料を収集して、ゲノム・エピゲノム・トランスクリプトーム・プロテオーム・メタボロームの拠点解析に供したものです。エピゲノム領域では、主としてDNAメチル化の網羅的な解析を行いました。

医薬基盤研究所先駆的医薬品・医療機器研究発掘支援事業「多層的疾患オミックス解析に基づく創薬標的の網羅的探索を目指した研究」

腎細胞がんにおける多層的オミックス解析と予後診断法

当センター研究所におけるこれまでの研究で、腎細胞がん患者さんでは、はっきりしたがんができる前から、腎組織に既にDNAメチル化の異常が蓄積していることがわかっていました。そこで、前がん状態で既にDNAメチル化異常を起こしやすい遺伝子に注目し、そのDNAメチル化率を基に階層的クラスタリング※3という手法で腎細胞がんのグループ分けを行いました。この結果、CpGアイランドメチル化形質 (CIMP)陽性という腎細胞がんのグループを同定しました。CIMP陽性腎細胞がんは進行が早く、手術しても転移・再発を来しやすい性質がある (予後不良である)ことが分かりました。そして、FAM150Aをはじめとした17個の遺伝子が、腎細胞がんのCIMPマーカー遺伝子であることを見つけました。この17個の遺伝子のDNAメチル化の状態は、その腎細胞がんがCIMPであるかを判定する目安になります。
CIMPマーカー遺伝子を使った腎細胞がんの予後診断を確実に行うため、17個の遺伝子上のたくさんのCG配列のDNAメチル化率を精密定量し、特に診断能力の高いCG配列を見つけました。次に、一つ一つのCG配列について、DNAメチル化率が何%を超えたらCIMPと考えるべきか(転移・再発のリスクが高いと考えるべきか)という診断閾値を決めました。特に診断能力の高いCG配列の診断閾値を組み合わせて、腎細胞がんのCIMP診断基準(予後診断基準)を作りました。この腎細胞がんの予後診断基準を、別の腎細胞がん症例群 (検証コホート)に当てはめたところ、この診断基準でCIMP陽性とされた症例は確かに予後が悪いことが分かり、予後診断基準の信頼性が確かめられました。

CIMPマーカー遺伝子を使った腎細胞がんの予後診断法を開発しました

一方でCIMP陽性腎細胞がんでは細胞周期のチェックポイントに関わる異常が高頻度に起こっていることが分かりました。このチェックポイントの鍵となるキナーゼ分子の阻害剤が、CIMP陽性腎細胞がんの治療に有効な可能性があると考えて、現在さらに研究を進めています。手術でCIMP陽性であることが分かったら、手術後の転移・再発抑えるためにこのキナーゼ分子の阻害剤を使って術後補助療法治療を行う、といった個別化医療を展開できる可能性があると考えています。

小型汎用DNAメチル化診断装置を利用した今後の展望

DNAメチル化は、腎細胞がんの予後診断法として有用であるだけでなく、血液等の体液検体等のDNAメチル化率を評価することで、発がんのリスクを予測できる場合があります。また、正常の細胞にはなく、がん細胞でだけ起こっているDNAメチル化異常を目印に、がんの存在診断ができる可能性があります。腎細胞がん以外のがんでも、DNAメチル化率を定量することで、予後を診断したり、特定の治療法への反応しやすさを明らかにするコンパニオン診断を行える場合があります。現在開発中の装置が普及すれば、DNAメチル化診断を基盤とする先制医療・個別化医療に貢献できると期待されます。

発表雑誌

雑誌名:
BMC Cancer
論文タイトル:
Prognostication of patients with clear cell renal cell carcinomas based on quantification of DNA methylation levels of CpG island methylator phenotype marker genes
著者:
(*責任者)Tian Y, Arai E, Gotoh M, Komiyama M, Fujimoto H, Kanai Y *
DOI番号:
10.1186/1471-2407-14-772
URL:
http://www.biomedcentral.com/1471-2407/14/772

関連特許

  1. (1)金井弥栄, 新井恵吏, 山田有理子, 與谷卓也.「腎細胞癌の予後判定方法」基礎出願 特願2014-039417 2014年2月28日.国内優先権主張出願 特願2014-044943 2014年3月7日
  2. (2)金井弥栄, 新井恵吏, 田迎. 「腎細胞癌の予後予測方法」基礎出願 US 61/646044, 2012年05月11日. PCT出願 PCT/JP2013/62650, 2013年4月30日. 国際公開 WO2013/168644A1, 2013年11月14日.各国移行 JP 特願2014-514703, US 14/399591, EP 13787593.6, CN 201380036415.8, KR 10-2014-7032254.
  3. (3)金井弥栄, 新井恵吏, 長塩亮. 「肝細胞癌のリスク評価方法」基礎出願 特願2011-16695, 2011年1月28日. PCT出願 PCT/JP2012/51803, 2012年1月27日. 国際公開 WO2012/102377A1, 2012年8月2日. 国内移行 特願2012-554863, 米国移行 US13/982039.

用語解説

  1. ※1CpGアイランドメチル化形質
    個々の患者さんにできるがんの個性 (形質)のひとつ。多数の遺伝子において、タンパク質が作られる量を調節するのに重要なCpGアイランドという領域のDNAメチル化率が正常よりも上昇しており、がんのたちの悪さ (進行の早さや予後)ともよく相関する。海外の研究者によって、CpGアイランドメチル化形質の胃がんや大腸がんが存在することが既に報告されていたが、腎細胞がんにCpGアイランドメチル化形質が存在することは当研究所で初めて見つけた。
  2. ※2高速液体クロマトグラフィー (HPLC)法
    分析化学の手法のひとつ。分析したい試料を含む移動相(溶離液)を固定相(充填剤)が充填されたカラムの中に流し、固定相との相互作用の差を利用して試料中の複数の成分を分離検出する方法。ここでは、メチル化されたDNA断片とメチル化されていないDNA断片を、分離して定量する。
  3. ※3階層的クラスタリング
    統計解析の手法のひとつ。分類の対象とすべき集団 (ここでは多数の腎細胞がんの患者さん)を、データ (ここでは全ゲノム上の約2万7000個のシトシン塩基のDNAメチル化率)をもとに、性質の近いグループごとに分けていく方法。ここでは、腎細胞がんの患者さんを、CpGアイランドメチル化形質陽性のグループと、陰性のグループに分けることができた。
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独立行政法人国立がん研究センター 〒104-0045 東京都中央区築地5-1-1
研究所 分子病理分野長 金井弥栄
TEL:03-3542-2511 
FAX:03-3248-2463 
E-mail:ykanai@ncc.go.jp

積水メディカル株式会社 〒301-0852 茨城県龍ヶ崎市向陽台3-3-1
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FAX:0297-62-8635 
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