確かな技術でMCIを早期発見 ~認知症という社会課題の解決に挑む~
高齢化が進む日本において、認知症はいまや大きな社会課題である。その前段階であるMCI(軽度認知障害)については、まだあまり知られていないが、この段階で早期に発見できれば認知症の予防につながる可能性がある。
積水メディカルのSMCLラボラトリーでは、長年培った臨床検査の知見を活かして、株式会社MCBI(以下MCBI社)が提供する「MCIスクリーニング検査プラス」の受託検査を担う。MCBI社とタッグを組んで認知症という社会課題の解決に挑む積水メディカルの取り組みを紹介することで、MCIへの理解を広め、認知症への対策に踏み出す一歩を後押ししたい。
「MCI=認知症」ではない。未病だから、予防できる
MCIとは、認知症の手前の状態を指す。厚生労働省の2022年推計では、65歳以上の高齢者のうち認知症患者が約443万人いるのに対し、MCIは約559万人。2012年調査時の約400万人から1.4倍に増えている。
「重要なのは、MCIは認知症ではないということです」と切り出したのは、積水メディカルの事業企画部長としてMCI関連事業を推進する川上勇生だ。

MCIは記憶力や判断力の低下が見られる一方、日常生活には支障のない状態である。この段階で適切に対処すれば、認知症への移行を防げる可能性がある。MCIと診断された高齢者のうち、4人に1人が正常な状態に戻ったという研究結果もあるほどだ。投薬治療を行う場合、病状の進行を遅らせる新薬は軽度のうちに処方するほうが高い効果を期待できる。
そもそも、もの忘れの症状は必ずしも認知症に起因するとは限らない。その意味でも、早い段階でMCIかどうかを見極めることが重要だ。「MCIだとわかることは、決して絶望的なことではないのです」と川上は力を込める。
MCIはいわば未病である。「早く見つければ認知症予防につなげることができる。そのことを知っていただきたいのです」。そう語るのは、MCIスクリーニング検査の受託事業を立ち上げから担当してきた積水メディカル 事業推進グループの城下友義だ。認知症になってから対応するのではなく、“その前に気づく”ことの重要性を伝えるため、MCIスクリーニング検査の普及に取り組んでいる。

検査は、たった一度の採血から
MCIは病気でないがゆえに、早期発見は簡単ではない。「だからこそ、リスク検査で兆候をつかむことに意義がある」と話すのは、「MCIスクリーニング検査プラス」を提供するMCBI社の江原一弥氏だ。

2021年から同社が提供する「MCIスクリーニング検査プラス」は、認知症の発症に関わる9つのタンパク質を解析し、将来のMCIとなるリスクを評価する。「栄養」「脂質代謝」「炎症・免疫」「凝固線溶」の4カテゴリでリスク値を算出し、ABCDの4段階で総合評価する。「結果が悪ければ認知症だというものではありません。検査をきっかけに予防に取り組んでいただくことに意義があります」と江原氏は言う。
受検者の中心は50~60歳代。認知症の有病率は加齢とともに高まる。中年期のうちにリスクを知って、生活習慣を見直せば、将来の発症リスクを抑えられる。中年期の人はA・B判定など低リスクと判定されることが比較的多く、C判定が出ると『何かしなければ』と生活習慣の改善に取り組む人も少なくない。実際、2回以上受検した人の半数ほどに数値の改善がみられるという。
検査に必要なのは採血のみ。地域のクリニックを含む全国3,500カ所以上の医療機関で受検できる。健康診断や人間ドックと併せて受けられるケースも多い。MCIの認知が広がるにつれ、受検者数も増えている。
「現時点で17万人、来年には20万人を超える見込みです。早期発見にはご自身の状態を把握することが欠かせません。検査のニーズは高まっています」江原氏はそう語る。
信頼できる検査結果は、積み重ねてきた実践が支えている
採取した検体は臨床検査センターを経てSMCLラボラトリーに届き、積水メディカルが分析する。「MCIスクリーニング検査プラス」の受託事業開始にあたり体制を整えた城下は、「検体を解析するには、非常に緻密な運用が求められます」と話す。
プロジェクトの始動には、高度な専門知識が求められた。
血液は様々な成分で構成されている。「MCIスクリーニング検査プラス」では、その中からMCIのリスク判定に必要な成分だけを取り出して測定しなければならない。わずかな違いによってリスク判定が変わらないよう、再現性の高い分析手法で測定結果を得られているのかを確認する必要があった。
また、測定結果の信頼性は、一つひとつの地道な確認作業によって支えられている。測定機器は使用し続けることによってわずかに性能が変化することがあるため、検体測定の前後に基準となる精度管理用サンプルを測定し、機器に異常がないかを確認している。さらにその結果を日々記録し、継続的に確認することで、安定した測定結果の品質を維持している。受検者には見えないこうした積み重ねこそが、信頼できるリスク判定につながっている。
正確な検査を行うには、検体が適切な状態でSMCLラボラトリーに届くことも欠かせない。しかし実際には、検体の取り扱いに関する課題が生じることもある。積水メディカルは検体の受け入れ基準を臨床検査センターに提示し、基準から外れた場合の修正指示内容もあらかじめ定めている。こうしたトラブルシューティングが医療現場を支えていると江原氏は語る。「検査から結果の返却までには、通常2~3週間かかります。検査の工程でトラブルが起き、結果返却に遅れが生じれば、医療機関や受検者の方にもご迷惑をおかけすることになります。トラブルへの適切な対処までお任せできるのは、パートナーとしてとても助かります」と顔をほころばす。「信頼に応えられるよう、万全の体制を整えています」と答える城下には、エキスパートとしての自負がうかがえる。

こうした受託体制をスムーズに構築できた背景には、積水メディカルがこれまでに培ってきた臨床検査の知見がある。川上は積水メディカルのブランドプロミスである「Confidence Inspired by Quality」を挙げる。「当社の検査品質は、臨床検査薬を扱う競合他社と比べても高い水準にあると認識しています。お客様の目線に立ったサービスも強みです。長年積み上げてきた技術と基盤があるからこそ、不確実な要素が多分にある新規事業の立ち上げにも適切に対応できるのです」。
認知症予防の未来を切り拓く
かつて認知症は「早期発見・早期絶望」の病だといわれていた。それがMCIに着目することで、いまや早期改善につながる時代になっている。しかし、こうした認識はまだ十分に社会に浸透していない。「特に中年期の方に予防の重要性を知ってもらい、自分ごととして捉えてほしい。MCIについて正しく理解し、身近な人にも広めてほしい」と城下は言う。
検査の普及には費用面の課題も残されている。「MCIスクリーニング検査プラス」の検査費用は、医療機関にもよるが25,000円前後。受検しやすい価格の実現が検査の拡大には欠かせない。一方で企業や自治体が補助する仕組みが整えば、受検への後押しになる。実際、一部の自治体は、認知症予防のために「MCIスクリーニング検査プラス」を活用。健康づくり施策の一つとして位置づけ、検査をきっかけに運動や生活習慣の改善へつなげるなど、地域ぐるみの取り組みでは成果をあげてきた。MCIの早期発見を社会に根づかせるためには、費用負担の軽減に加え、企業や自治体を巻き込みながら組織的に受検を促す仕組みづくりが欠かせない。
巷でのプロモーションやSNSでの情報発信も活発になり、MCIへの関心は高まりつつある。認知が広がり受検しやすい環境が整えば、検査需要は今後さらに増えるはずだ。こうした社会状況において、積水メディカルが担うべき役割を川上は次のように語る。「真偽の定かでない情報も溢れるなかで、正しい医学情報にもとづいた普及啓発に取り組むこと。検査件数が増えても、高い品質の分析とスピード感のある対応を担保すること。こうした堅実な姿勢を貫いて、信頼される存在であり続けることです」。
受検者の増加を見据えて、城下は「検体の取り分けをはじめ、現在は人の手で行っている作業を自動化する仕組みを整えていきたい」と展望を描く。「検査クオリティを担保することにとどまらず、結果返却までの時間を短縮することにもつながりますし、構築した仕組みは他の検査にも応用できる資産になります」。
積水メディカルはこれまで、臨床検査薬をはじめとするライフサイエンス分野でイノベーションを目指してきた。一方、MCIスクリーニング検査は、医療の枠を超えた社会的なテーマへの挑戦といえる。「この検査を通じて認知症を予防する道筋を整えられれば、社会課題に光明をさすことができます」と川上は意気込む。「日本は世界でも有数の高齢社会です。だからこそ、この事業を通じて得られる知見は、世界に発信できる意義の高いものとなるはずです」。
認知症になってから対応するのではなく、その前に気づく。MCIの早期発見を通じて、一人でも多くの人が健康な未来を描ける社会へ。積水メディカルの挑戦は、これからも続いていく。


理事長 朝田 隆先生
定年延長に欠かせない認知症対策を。これからの企業の務めです。
日本では認知症の症状が出てから受診までに平均約2年かかるとの調査結果があります。認知症の診断が下りることへの抵抗感から受診が遅れるほど、病気は進行し、取れる手立ては減ります。認知症への対策には、薬の投与以外に二つの側面があると考えています。ひとつは難聴や高LDLコレステロール、うつ病、糖尿病、喫煙といったリスク要因に対処すること、もうひとつは認知症につながる異常が脳内に生じても認知機能を保つ「認知予備能」を育むこと。運動したり人と交流したりすることは、これらの両面から有効なアクションです。今後さらに寿命が延び、企業における定年延長が進めば、社内に認知機能の低下が見られる人も出てくるはずです。働く世代の健康を守るために企業ができる取り組みとして、手軽に受けられるMCIスクリーニング検査を取り入れてみてはいかがでしょうか。認知症への対策は、いまや経営課題のひとつですからね。

代表取締役 徳美 喜久様
高い検査クオリティを担保するプロフェッショナル。信頼しています。
アルツハイマー型認知症は治す手立てのない病気です。唯一できることは発症を防ぐこと。そのために「MCIスクリーニング検査プラス」では指標とするタンパク質を増やし、精度の高い判定を行う必要がありました。LC-MS(液体クロマトグラフ質量分析計)を使いこなし、精密な分析を必要とする事業において、臨床検査に確かな技術を持つ積水メディカルは最良のパートナーです。LC-MSを用いた他の検査実績もある上に、品質にシビアだから信頼しています。検査の立ち上げにあたっては、長年培われた専門的な知見にもとづいて整備すべきことをご指南いただきました。心強いですね。いまや認知症は「最もなりたくない病気」の第一位。MCIスクリーニング検査を通じて一人でも多く認知症になる人を減らしたいという私の夢を、積水メディカルとともに実現していきたいです。
※本記事は2026年9月時点の情報です